東京オリンピックのボート競技・カヌー競技の会場である「海の森水上競技場」の完成披露式典が2019年6月16日に行われました。 完成披露式典に引き続いて行われた完成記念レガッタには英国よりオックスフォード大学、ケンブリッジ大学クルーが招待されました。 両校のボートクラブは古い伝統を誇り、テムズ川で行われる競漕大会はThe Boat Raceと呼ばれ、ロンドンの春の風物詩として広く知られています。
今回、来日したメンバーは、このThe Boat Raceの出場歴を持つだけでなく、さらにオリンピックや世界選手権のメダリストも含まれています。 この貴重な機会を利用し、東京大学スポーツ先端科学拠点プロジェクトの一つである「最適な漕運動実現のための科学的アプローチ」 (研究代表者:教育学研究科 野崎大地教授)で開発された計測システム(写真1)を同競技場内のジムに持ち込み、ボート漕ぎ運動時のデータ計測を実施しました(写真2)。
すでに日本人選手を対象として行った計測によって、ハンドルやシートの動かし方、ハンドルやストレッチャー(足を置く部分)に対する力のかけ方には、 一流選手特有のパターンが存在すること、また、そのパターンが理論的にも効率が良い漕ぎ方であることが見えつつありました。 今回、さらに高いスキルを持つ両大学クルーメンバーのデータが同様に優れたパターンを示したことは、これまでの考え方の正しさを裏付けるものです。 この優れた漕ぎ方を実現するためにはどのようなトレーニングを行えばよいのか、研究をさらに進めているところです。
写真1
写真2
概要)
アスリートの身体を改善し、その運動パフォーマンスを向上させるために、アスリートの栄養摂取を的確にモニターし、
適切な指導を提供することのできる情報プラットフォームが必要とされている。
本プロジェクトでは、アスリートが負担少なく食事を随時記録することを可能とし、
モニターする管理栄養士がアスリートの毎食に行う指導・コミュニケーションを支援するツールのプロトタイピングを
行うことを目的としている。具体的には、アスリートが食事をする際に食事写真の画像認識を介してその記録を支援し、
最終的には11万食以上の栄養データとの紐付けを可能とした。また、管理栄養士とのメッセージの送受によるコミュニケーション、
体重等のバイタル情報の記録も可能とした。これにより、管理栄養士はアスリートの食事記録、栄養情報、バイタル情報を参照した上で
アスリートにメッセージを作成、送出できる。現在、そのプロトタイプツール(FoodLog Athl)を構築し、
実際に東京大学アメリカンフットボール部の選手とドーム株式会社のスポーツ管理栄養士を対象に実証的なトライアルを行っている。
代表)
相澤 清晴(大学院情報理工学系研究科・教授)
共同実施者)
寺田 新(大学院総合文化研究科・准教授)
株式会社ドーム
フードットログ株式会社
問い合わせ先)
相澤 清晴 aizawa(at)hal.t.u-tokyo.ac.jp
概要)
本プロジェクトでは、ゴルフにおけるスキル階層として、1) 呼吸・心拍・姿勢、2) リズム・協調(コーディネーション)、
3) 時空間知覚・制御、4) 意思決定、の四層を仮定し、近年著しく発展しつつある生体情報センシング技術を用いて
各階層のスキル向上を図る統合的学習支援システムを構築することを目的としている。各階層に関わる具体的テーマは以下のとおりである。
1)呼吸・心拍・姿勢
練習およびラウンド時の生体情報計測・解析を通して、ショットの好不調の原因や「ゾーン/フロー状態」の解明を目指す。また、フィールドでのセンシングを通じてあがりやイップスの動態を捉え、予防のためのプログラムを開発する。
2)リズム・協調(コーディネーション)
練習およびラウンド時のスイングをリモートセンシング技術により計測し、ルーティーン動作も含めたスイングのリズム・体肢間協調とパフォーマンスの関係を明らかにする。
3)時空間知覚・制御
正確なスイングを再現するための身体操作技能を明らかにするとともに、距離・傾斜・風の読みなど、ゴルフのための知覚・認知能力を明らかにする。
4)意思決定
ゴルフのラウンドにおいては、クラブの番手選択、バンカーやハザードを考慮した狙いどころの選択、動作速度―正確さを考慮した飛距離選択など、多くの意思決定がパフォーマンス(スコア)に関係する。そこで、これらの意思決定の最適化にかかわる要因を明らかにし、ベストスコアを引き出すための意思決定支援システムを構築する。
代表)
工藤 和俊(大学院情報学環・准教授)
共同実施者)
中村 仁彦(大学院情報理工学系研究科・教授)
染谷 隆夫(大学院工学系研究科・教授)
吉岡 伸輔(大学院総合文化研究科・准教授)
関連論文)
・Ota, Shinya, Kudo (In press) Transcranial direct current stimulation over dorsolateral prefrontal cortex modulates risk-attitude in motor decision-making. Frontiers in Human Neuroscience.
・Onagawa R., Shinya M., Ota K., & Kudo K. (2019). Risk aversion in the adjustment of speed-accuracy tradeoff depending on time constraints, Scientific Reports 9: 11732, doi.org/10.1038/s41598-019-48052-0.
問い合わせ先)
工藤 和俊 kudo(at)idaten.c.u-tokyo.ac.jp
概要)
本プロジェクトでは、アスリートのメディカルチェックにより選手の身体的特徴を収集し、その後発症するスポーツ障害を前向きに追跡、解析を行い、
スポーツ障害発症リスク因子を明らかにするとともにスポーツ障害発症リスクを算出することを目的としている。
具体的にはアスリートのメディカルチェック(身長、体重、体組成計測装置を用いた筋量・体脂肪率などの測定、
関節弛緩性・筋の柔軟性測定、関節可動域の計測、筋力測定、バランス評価、走行中の足底圧、動体視力測定、
反射神経評価、心理的競技能力診断検査 (DIPCA.3))および人工知能を用いたマーカーレス三次元モーションキャプチャによるスポーツ動作の動態解析を行い、
その後に発生するスポーツ障害のデータを解析している。
すでに延べ580名以上のアスリートのデータを収集しており、人工知能を含めた手法によりスポーツ障害発症リスクを算出するプログラムを開発中である。
本プロジェクトにより、選手個別の障害/外傷リスクの算出が可能となり、選手個人にあった障害予防プログラムの提供ができるようになることが期待される。
アスリートのスポーツ障害/外傷発生が減少することで競技寿命延長や競技時間ロスの減少、さらには選手の競技力向上に貢献できるものと考えられる。
代表)
武冨 修治(大学院医学系研究科・講師)
共同実施者)
川口 航平(スポーツ先端科学研究拠点・特任研究員)
水谷 有里(スポーツ先端科学研究拠点・特任研究員)
芳賀 信彦(大学院医学系研究科・教授)
中村 仁彦(大学院情報理工学系研究科・教授)
池上 洋介(大学院情報理工学系研究科・助教)
関連URL)
http://www.u-tokyo-ortho.jp/
問い合わせ先)
武冨 修治 takeos-tky(at)umin.ac.jp
概要)
漕艇競技は1本もしくは2本のオールを用いてボートを2000m進める時間を競う競技である。競技用ボートはシートが前後にスライドするようになっており、
ボートを進めるための推進力として脚の伸展力を活用できる点が、公園においてあるような普通の手漕ぎボートとは異なっている。
脚の伸展、体幹の後方へのスイング、腕の引きつけという三つの動作をどのように時間的・空間的に協調させてハンドルに力を伝達するかが重要となる。
この点に関して、体幹のスイングをより強調する漕法、脚伸展をより優先的に使う漕法、脚伸展と体幹のスイングを同時に行う漕法、
脚伸展の後に体幹のスイングを行う漕法のように様々な漕法が提案されている。各漕法がどのようなハンドルパワーを生み出すのか、
大まかには理解されているものの、どの漕法がどの点で優れており、またそれは何故なのかについて十分理解されているとはいえない。
そこで本プロジェクトでは、我が国の漕艇競技力を科学的に高めるために、最適な漕動作パターンを科学的に導出するとともにその最適性のメカニズムを理解し、
さらにそれを実現するためのトレーニング方法を開発することを目的としている。漕運動はスポーツ動作の中でも比較的動作が単純であると同時に、
様々なデータを計測・定量化しやすく、科学的アプローチを最も適用しやすい種目であるといえる。
科学的アプローチがスポーツの世界にブレークスルーを生み出せるのか挑戦を続けているところである。
代表)
野崎 大地(大学院教育学研究科・教授)
共同実施者)
中村 仁彦(大学院情報理工学系研究科・教授)
八田 秀雄(大学院総合文化研究科・教授)
池上 洋介(大学院情報理工学系研究科・助教)
萩生 翔大(大学院教育学研究科・特任研究員)
関連論文)
・野崎大地, 萩生翔大 (2018). 効率的なローイング動作を探る. スポーツ工学・ヒューマンダイナミクス講演論文集
問い合わせ先)
野崎 大地 nozaki(at)p.u-tokyo.ac.jp
概要)
障がい者スポーツは、リハビリテーションの一環として始まり、現在はパラリンピックを頂点とした競技スポーツとしても大きく発展している。
障がいのあるなし問わず、スポーツ実施は全身の耐久力や協調動作の回復、精神的・心理的強化などに大きな効果を持ち、
メタボリックシンドロームや要介護状態を防ぐなど、QOL向上や福祉やインフラ等の社会的コストの削減にもつながる。
特に障がいのある人々においてはスポーツの実施率と様々な日常活動性の高さに相関があることが示されており、
スポーツは障がいのある人々の自立性の促進やインクルーシブ社会の構築に大きな効用を持つ。
しかしながら、国内の障がいのある人々のスポーツ実施率は極めて低く、
特に車いす利用者においては週一回のレクリエーション実施を含めても約10%程度にとどまっていること、
パラリンピック競技大会において日本の国際競技力が著しく低下していることなど、障がい者スポーツの普及促進、
選手の育成強化に大きな課題が顕在している。この要因として、障がい者スポーツの研究や科学的エビデンス、
定量的評価が十分に蓄積されていないため、障がい者スポーツの指導がほぼ経験則によってのみ進められていること、
指導者自体が非常に少なく、育成システムが確立していないことなどが挙げられる。また、障がい者スポーツに関する情報が少なく、
スポーツを始めるモチベーションやきっかけを生み出しにくいことが普及の大きな障壁となっている。そこで本プロジェクトでは、
車いすを操動作中のパワーや生理学的指標について計測し、日常やトレーニング中の車いすの走行を定量的に解析する。
得られたデータをもとに、車いすアスリートの強化トレーニングの実施、スポーツ開始段階に有用なツールやプログラムの開発を進めることで、
国内での障がい者スポーツの普及と強化を促進し、障がいのある人々のスポーツを通した社会参画の促進につなげることを目的としている。
代表)
平松 竜司(大学院農学生命科学研究科・助教)
共同実施者)
八田 秀雄(大学院総合文化研究科・教授)
柿木 克之(BlueWych合同会社・代表社員)
問い合わせ先)
平松 竜司 arhiramatsu(at)mail.ecc.u-tokyo.ac.jp
概要)
関節は骨、軟骨、半月板、靭帯など様々な要素から構成されており、種々のスポーツ活動におけるオーバーユースによる過度の負荷または外傷によって
これらの損傷や変性が惹起されると関節の痛みや不安定性が生じ、スポーツ活動のみならず日常生活にも大きな支障をもたらす。適切な治療を受けることなく経過した場合、
若年のうちに変形性関節症を発症することも珍しくなく、一生運動機能の障害と付き合うことになりかねない。
そこで、これまでの研究では化合物や幹細胞を用いた骨、軟骨、靭帯等の再生や、マウスモデルを用いたそれらの組織学的な有効性評価が行われてきた。
しかしながら、実際の関節の動きや痛みなど、非臨床で機能面での有効性を評価できなければ臨床試験に移行することは難しく、そのことが開発の過程で大きな障壁となってきた。
我々の研究グループは、この課題を解決すべく、高速度カメラによるモーションキャプチャを用いたモデルマウスの関節障害の評価系構築に取り組んできた。 これまでの成果として、変形性膝関節症のモデルマウスとして内側半月板および内側側副靭帯の切除を外科的に行ったマウスを作成し、 軟骨変性が進行した術後6か月において歩行動作を解析したところ、膝関節の運動機能障害として障害側の肢では体重を十分に支持することができないこと、 また遊脚相においても膝関節を十分に屈曲することができないことを報告した。さらに、これらの膝関節の運動機能の障害は消炎鎮痛剤(cyclooxygenase-2 inhibitor: Celecoxib)の 投与によって軽減されることを報告した。本プロジェクトでは、これらの研究成果をベースに、各種関節障害モデルマウスにおいてより高い精度の関節機能評価系を開発することを目的としている。 具体的には、複数台の高速度カメラを用いたモーションキャプチャにより各種モデルマウスの歩行運動の詳細な解析を行う。 治療介入としては、企業と共同研究開発を進めている脂肪由来幹細胞(Adipose derived stem cell: ASC)製剤やシーズ化合物の関節内投与を行い、 関節の動きや痛みに対する影響について詳細に検証を行う。
代表)
柳原 大(大学院総合文化研究科・教授)
共同実施者)
齋藤 琢(医学部附属病院・准教授)
福井 尚志(大学院総合文化研究科・教授)
矢野 文子(大学院医学系研究科・特任准教授)
小俣 康徳(大学院医学系研究科・特任講師)
淺香 明子(大学院総合文化研究科・特任研究員)
関連論文)
・Makii Y, Asaka M, Setogawa S, Fujiki S, Hosaka Y, Yano F, Oka H, Tanaka S, Fukui N, Yanagihara D, Saito T (2018).
Alteration of gait parameters in a mouse model of surgically induced knee osteoarthritis. Journal of Orthopaedic Surgery, 26, 1-7.
問い合わせ先)
柳原 大 dai-y(at)idaten.c.u-tokyo.ac.jp
概要)
本プロジェクトでは、大学時の体力と客観的に測定した中高年期の身体活動が関連するか否かを長期縦断コホート研究により明らかにすることを目的としている。
本学教養学部では1961年から現在に至るまで、体育実技授業で全入学生に対して、垂直跳び(瞬発力)、反復横跳び(敏捷性)、
腕立て伏せ(筋力・筋持久力)、踏み台昇降(全身持久力)の四種目から成る体力テストを一貫して実施している。
そこで、本プロジェクトでは体力テスト結果が現存する1961~2015年の入学生のうち約2,000名を対象とし、
活動量計を用いた調査を1週間実施した。現在、大学時の体力と中高年期の運動習慣(身体活動)の関連性を解析している。
体力(および各体力要素)と中高年期の運動習慣との関連を明らかにすることは、より実効性の高い身体活動増進対策の実現、
将来運動不足になりがちな集団の早期の特定、青年期に体力を高く保つことの意義を国民に広く知らせることにつながることから、
公衆衛生面に加えて学校体育においても重要な意義を持つと考えられる。また、本学学生・卒業生の健康増進の観点からも有用なものであることから、
UTSSIの研究プロジェクトとして取り組んでいる。
代表)
吉岡 伸輔(大学院総合文化研究科・准教授)
共同実施者)
八田 秀雄(大学院総合文化研究科・教授)
寺田 新(大学院総合文化研究科・准教授)
笹井 浩行(大学院総合文化研究科・助教)
鎌田 真光(大学院医学系研究科・助教)
大庭 幸治(大学院医学系研究科・准教授)
問い合わせ先)
吉岡 伸輔 yoshioka(at)idaten.c.u-tokyo.ac.jp
笹井 浩行 h.sasai(at)idaten.c.u-tokyo.ac.jp